うつ病の旦那が死んだはなし(13)
※久々の更新となります。タイトル変えたいと思います。検索で来る方にとって、婚姻関係の無い「彼」のうつ病の苦しみを支える人と、苦しみの種類が異なると思うのです。どちらがより苦しい、のではなく。
■告白
棺に入れたいものを持ち、主人の実家へ戻るとそこにはもう、棺に眠る彼が居ました。顔をちょっとのぞいて見たけれど、もう彼なのか、なにが現実なのか、分からなくなってきて、私は棺を乗せているこの、三角形の土台は、なんて名前で、どこの会社が生産しているのかな、独占企業で儲かっているんだろうな、とかどうでも良い事を考えていました。
大概、こういうどうでも良い私の話を聞く係りが、彼でした。
「美紀子ちゃん、目の付け所が、相変わらずだね~」
多分こう返してくるはずです。
今日もこう返して欲しいのに。
お線香をあげてみました。
気持ちは平静としていたはずなのに、手が震えて、うまく火に付けられません。手を合わせてみると、自分の手の冷たさに驚きました。でも、遺体安置所で触れた彼の額の冷たさとは比べ物になりません。生きているんだ、私は。
彼のために持ってきたお酒や焼き鳥と一緒に、ジップロックに入った冷凍のミートソースを取り出しました。半分溶け出して、どう見てもおいしそうに思えません。
これは、最期に一緒に行ったコンサートの日、私が作っておいたものでした。
本当は、もう会ってはいけなかったのに、内緒で行ったコンサート。
もしかしたら、コンサートの後、あみに会いたいと家に来るかもと思い、作っておいた夕食でした。
結局彼は家に来なかったけど、その日のメールにこう書いて送ってきました。
「本当は、美紀子のミートソース食べたかったよ」
そしてこう、続いていました。
「今さらだけど、美紀子といると楽しいね」
私からは、こう返信しました。
「半分、T君の分は冷凍して残しておくから食べにおいでね」
このコンサートの日の彼の様子を思い出すのが辛いです。
彼は、ずっと話をしてきていました。話が止まらないのです。内容は、どうでも良い話ばかりです。そう、いつも私たちの話はどうでも良い話ばっかりでした。でも、それが楽しかった。離婚して3ヶ月間、そのどうでも良い話をする相手がいなかったのが、とてもとても辛かったんです。お互い同じ辛さだったのです。いや、彼の辛さは私の比じゃなかったはずです。
そして今、どうでも良い話をする相手は、動かなくなりました。
この、棺を乗せている鉄製の三角の土台、なんて名前なんだろう、メーカー名書いてるかもしてないから、ちょっと見せて、裏側見たいから、ちょっとどいて。中国製かな?たまに意外な国で作ってたりするんだよね、メキシコ製とかさ、ユーゴスラビア製とかさ。あ、仏教国じゃないから、作ってないかぁー
まさか、旦那が死んだ日の夜、思い出にふけるどころか、こんなどうでも良い事を彼に語りかけていたなんて、ドラマや映画では泣きふける夜そんなことを考えていた事を、ここに告白します。
彼が生きていたら、しばらくはこの土台の話題で盛り上がったことでしょう。「この話さ、どーでも良くない?」どちらかが気づいて止めるまで。





